日本財団 図書館


 

ていた時期がございます。それから「育児と老親の介護は第一義的には家族の責任である」ということで、妻とか母の役割が非常に強調されていた時期があります。その頃私は家族法の研究者として大学に勤めており、「これはいけない」と思いました。21世紀の人口構成を考えると、世帯構成を予測すれば1人っ子の時代に入る、長男長女の時代、そのなかで若年労働者が少なくなる、女性も高齢者も労働市場に出なければいけなくなる、もちろん女性の社会進出の意欲も高まる、こういうなかで家族介護ができるはずがないというように思っていました。
その後、家族の機能障害に関する研究、つまり高齢問題や非行、離婚問題をずっと調査研究してきたのですが、このなかでもあまりにも家族に役割を期待しすぎて、その結果いろいろな問題が起こっていると思いました。もう少し広い意味で家族の機能を支えるシステムが必要ではないかということを提言してまいりました。
その頃イギリスのオックスフォード大学と共同研究をしました。イギリスには「エイジ・コンサーン」という高齢者に対するボランティアのグループがありますが、これは1400ほどの支部・関連組織が英国のあちらこちらの州のなかにあります。現在、英国で25万人がこのボランティアとして活躍しています。こういうボランティアは「エイジ・コンサーン」だけではありません。「エイジ・コンサーン」は高齢者に関するものですが、「リレイト」というのは人間関係に関するボランティア活動をしていて、何万人もの会員が活躍しています。そういうような状況のなかで、先ほどアナ・ミヤレスさんが言われたような、高齢者に関しての送り迎えのボランティアとか、日頃のいろいろな活動をしているわけです。もちろん行政やヘルパーも支えているのですが、その頃日本で「弧老死」というのが問題になっておりましたが、英国ではそういうことがないという話を聞いて非常に印象的でした。
その後アメリカ合衆国のボランティアを研究させていただく機会を得ました。ここでも実にさまざまな分野で、今アナ・ミヤレスさんが言われたようなボランティア活動に皆さんが参加している。これは“この国は自分たちが支える、この国は自分たちがつくるのだ”という考え方の元にこのような活動をしているようで、いろいろな階層・年齢の人たちがボランティア活動しています。私から見ると、国の活動のほぼ1/5がそのようなボランティア活動でできているように見えましたが、実際はGNPの1割、ですから1/10だそうですが、それぐらいが無償の労働で成り立っているわけです。日本の場合は非常に豊かだと言われますが、実際に豊かさの実感がない、なんでも物を買わなければいけません。だから日本の場合にはすべてをお金で換算して、お金でしか動いていない、そういうところが豊かさの実感がない原因の1つではないかなと思ってきたわけです。
それで縁がありまして6年前(90年)に福岡市に勤めさせていただくことになりました。市民局女性部長を3年間務めさせていただきまして、3年前(93年)から、現在の福祉部長をさせていただいております。そのなかで今日、皆様と一緒にボランティアについて考えていく機会が与えられて非常に喜んでおります。よろしくお願いいたします。

 

田中 ありがとうございました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION